C12

šino kubismus マグとボウルの店

shino

シノクビスムス、と読むこのお店は、
チェコ・プラハ在住のチョーカー作家である
shinoさんのお店です。

「ほぼ日」ではチョーカーやくびまきどめの販売、
TOBICHIでは高橋禎彦さんとのコラボなど、
いっしょにいろいろな活動をしてきたshinoさん。

第1回「生活のたのしみ展」では
ビーズをアクセントに使った色とりどりの
チェコのベレー帽のお店「shino's beret」をつくり、
会期中そうそうに完売してしまうという人気でした。

本業がチョーカーづくりのshinoさん、
11月はちょうど個展で日本に来るタイミングでしたので、
ぜひご参加を! とお誘いしました。

その本業の忙しさゆえ、
新作をつくることは難しかったのですが、
この機会に、以前からチョーカーとは別に
shinoさんが続けてきた「マグとボウル」を
紹介したいと思います。

タイトルになっている「šino kubismus」ですが、
šinoはチェコ語表記でshinoさんのこと、
では「kubismus」は‥‥???

きっかけは、チェコのシンポジウム。

このマグとボウルをつくった最初のきっかけは、
2007年に開かれたマグカップのシンポジウムに
参加したことからだというshinoさん。

チェコ北部のDubiという町にある磁器工場で
隔年で開催されるもので、
参加者はマグカップ(取っ手必須)を
3つデザインして制作、最後に展示するというもの。

基本全ての工程を自分でこなします。

成形は鋳込み成形、もしくは機械ろくろ。

どちらも石膏型を使います。

(同じものを量産するのに向いている技法なので、
日本の作家の方にはあまり馴染みがないのですが、
最近は少し流行ってるようです。)

でもshinoさんが、どうしてマグカップのシンポジウムに?

それは、吹きガラスの技術を習得したいと考えていた時に、
ガラスに役立つなにかをという思いで、
短大の陶芸科で
石膏を使うこの技法を学ぶことになったのだそう。

でもまさか数十年後にチェコで役立つとは思ってもいず、
なにしろ学校を出てからは陶芸とは無縁だったので、
シンポジウムで何年ぶりかで土に触った時は素人同然!

制作は職人さんにかなり助けてもらったそうです。

でも工程がわかっていたので、
デザインする上では非常に役立ったとか。

どの技法にもそれに向いているデザインというのが
きっと、あるのですね。

ちなみにシンポジウムでは、
石膏型は専門の職人さんに作ってもらえます。

原型と石膏型がこの技法の命ともいえるので
(しかも数が必要)、
職人さんに作ってもらえるというのは願ってもないこと。

しかもその工場は磁器人形
(マイセンなどで有名なフィギュア)の伝統があり、
型職人さんの腕はお墨付き。

それも踏まえてデザインを提出したshinoさん。

ところがこのデザインが、
参加者から「職人泣かせ!」といわれました。

知り合いの型職人さんからも「お前なぁ‥‥」と
呆れられたほど、難しいものだったのだそうです。

でも実際担当してくれた若い職人さんは
まったく意に介する風でもなく、
とてもこのデザインを気に入ってくれたそうです。

そのシンポジウムでは本体部分は職人さんに
機械ろくろで成形してもらい、
取っ手は自分で鋳込んで組み立てました。

それがシンポジウム終了後に、ひょんなことから、
プラハにあるキュビズム美術館1階にある
「KUBISTA」というショップで
取り扱ってもらえることになります。

チェコ・キュビズムっていったい‥‥?

さあここに出てくる「キュビズム」。

絵画の世界では、ピカソやブラックに代表される、
「立体派」とも呼ばれる20世紀の芸術動向。

一点透視図法を否定して、
さまざまな角度から見たかたちを
ひとつの絵画に集約させる斬新な試みは、
「大流行」といえるほどのブームになりました。

これがチェコに来て、建築に応用されます。

20世紀初頭、若きチェコの建築家たちは、
こぞって斬新なキュビズム建築をつくり、
じつはそれが今でもプラハの街に残されています。

「チェコのアーティストはみな建築に造詣が深いんです。

建築家になるならプラハに行けといわれているくらい、
プラハは街全体が建築博物館のようなので
当然なのかもしれません。

そんな影響で私も建築に興味を持つようになりました。

中でも、キュビズム建築はチェコにしか存在しません。

もちろんアートのキュビズムも
決して嫌いではないんですが、
やはり建築様式としてのキュビズムに一目惚れでした。

というのも、キュビズム建築の特徴のひとつとして、
建築家が家具や食器を含むインテリアまで
デザインしてるんですね、
それが素晴らしいんです。

それでシンポジウムでマグカップをつくる
機会をもらった時に、
自分もキュビズムの器をつくってみたくなったんです」

ここでやっとつながりました。

シノさんがつくるキュビズムのうつわ。

それが「šino kubismus」なのでした。

チェコが認めたチェコ・キュビズム。

さて、そのうつわが、キュビズム美術館の
ショップで取り扱ってもらえることに。
ところがshinoさん自身には制作する設備も時間もなく、
シンポジウムの工場(Český porcelán a. s. Dubí)に
お願いしたところ、製造ラインの空いているときなら、
という条件でつくってもらえることになりました。

じつはこのショップ「KUBISTA」で
売られているキュビズムの器(陶器)は、
ほとんどがPavel Janákという
当時の建築家によるデザインの復刻版です。

「その中に、私の器がポツンとまじってるわけですが‥‥

なんと民主化後にチェコの首相をつとめた若手政治家も
ご自宅用にお買上げくださったとききました。

また2010年に上海で開かれた万博では、
チェコパビリオンに併設されたショップで、
チェコのキュビズムと並んでこの器も売られました」

いやはや、すごい! shinoさん!

このうつわ、チェコ人もみとめる
チェコ・キュビズムなんですね。

「じっさいに、マグの取っ手は、プラハに実在する
キュビズム建築のドアノブから
ヒントを得てデザインしました」

デザイン的には取っ手付きのほうが目を引くせいか、
プラハでは取っ手付きが人気だそう。

でも! これを書いている私(武井)、
チェコからshinoさんのこのマグとボウルを
持ち帰って使っておりますが、
じつは、取っ手なしのボウルも、
すごく使い勝手がいいんです。
ヨーグルトやフルーツ、サラダ、スープ‥‥
いろいろ使えて、食卓になじむ。

shinoさんによると、ボウルは以前、
日本で少しだけ販売したことがあるそうなのですが
(ということは、マグは、日本ではじめての販売!)、
ボウル、料理の好きな人からの人気が強かったらしい。

個人的な意見を言いますと、
飲み物はマグ、食べ物はボウルというふうに
使い分けをしております。
でもボウルでカフェオレをいれるのも
なかなかかっこいいです。

工場生産とはいえ、つくるのが難しく、
A品が多くできないという特性と、
ラインの空いているときにだけつくるという約束から、
たくさんは生産することができないのですけれど、
今回、200個ほどを輸入しました。

六本木ヒルズアリーナの会場のみでの販売となります。

高橋禎彦さんと同じブースで、
さらにshinoさんの協力でチェコで買ってきた古道具の店
「pojď k nám」(ポイチュクナム)もいっしょです。

会期中はshinoさんもお店にいますので、
ぜひ遊びに来てくださいね。