高橋禎彦

コップ屋タカハシヨシヒコ

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世界的に著名なガラス作家でアーティスト、
高橋禎彦さんのもうひとつの顔が、
実用品をつくる宙吹きガラス職人の
「タカハシヨシヒコ」さん。
今回はその名前で、
ワインを入れるとうんとおいしくなる
大きな宙吹きのコップを中心に、
いろいろなうつわを並べます。
「生活のたのしみ展」のシンボルになった
ガラスドームもありますよ。

高橋禎彦さんってどんな人?

卓越した技術と芸術性をもち
国内外での展覧会も多いガラス作家の高橋禎彦さん。
空中で竿を回しながら溶けたガラスに息を吹き込み、
遠心力を使って成形していく
「宙吹き」という技法でつくったオブジェは、
ガラスなのに、とてもやわらかい印象をもっています。
多摩美術大学を卒業後、
ドイツでの修業を経て工房を設立、
いまは母校で教授をつとめ、
現代日本のガラス工芸の世界に
多くの人材を輩出している教育者でもあります。

‥‥なんて書くと、さぞやしかめっ面の大御所では、と
想像してしまうかもしれませんが、
高橋さんご本人は、革ジャンを着て
長髪でロックが大好き
(自分でバンドもやっているそうです)な
じつにファンキーなカッコいいおじさんです。
「芸術」に向かう作家としての高橋禎彦とは別に、
ふとしたきっかけでつくりはじめたガラスの器ですが、
ここでも高い技術+「飲ん兵衛、食いしん坊」のセンスが、
使いやすく、かつ、
美しい作品を生み出すことになりました。

なかでも「コップ」は、口当たりのよさや、
飲むときの角度、持ったときの手ざわり、
かるさ、透明感‥‥いろいろな要素が組み合わさって、
「ただの水なのにおいしくなる」と評判に。
そのコップに注力した高橋さんの一面は、
「コップ屋 タカハシヨシヒコ」
として知られるところなり、
幾度か「ほぼ日」で紹介してきました。

ワインのコップのこと。

高橋さんのもとに
「ワイン用のコップがほしい」という声は、
2011年に「コップ屋」という個展をひらいたころから、
ずいぶん届いていました。
「安いはずのワインがおいしくなる!」
「いちど使うと手放せない‥‥」
「ワインがどんどん好きになって、
 いろんなワインを試したくなりました」
と評判の、高橋さんのつくる(脚つきの)ワイングラス。
遠心力と重力、そして空気のちからを使って、
あとから口を削ることなく仕上げることで、
その口当たりのよさは抜群、
なんともいえない気持ちよさを持っています。

けれども高橋さんのワイングラスは
脚(ステム、というそうです)の部分が長く、
台(フット、あるいはベースというそうです)が小さく、
ボウル(あるいはカップ。ワインが入るところですね)が
大きい。手づくりゆえのゆがみは、
たのしさであると同時に繊細に見える部分でもあります。

もちろんあらゆるガラスの容器は繊細です。
強化ガラスでもない限り、
落とせばかんたんに割れちゃいます。
そんななかにあって、高橋さんのガラスの器は、
印象として、とりわけ繊細(に思える)。
だから「今日はワインを楽しむぞ!」みたいな、
とっておきの場面では活躍しても、
「酔っぱらったら、洗うのも怖いし」と、
ふだん用としてテーブルに登場させづらい、
というひともいます。
これ、家飲みが好きなかたには
うんうん、そうそう、と、
わかっていただけることじゃないかなあ‥‥。
使いたいんだけど、酔って割っちゃったらつまらないし、
かなしい! なんて、妙にケチになっちゃって、
せっかく買ったのにもったいなくて使わなくなっちゃう。

そんな声をうけて、高橋さんが考えたのが
「脚のない、ワインのコップ」でした。
脚のないワイングラスというのは、
工業製品では、あることはあります。
けれども高橋さんのように宙吹きで、
しかもここまで「大きな」ものは、
まず、ないんじゃないかと思います。

高橋さんは慣れた手つきで
この大きなコップを片手でひょいと持ち上げるのですが、
ぼくらは、どうしても怖い気がして、
抹茶碗をもつように、両手で支えてみます。
あれ? 思ったよりも「すべらない」。
ガラスの肌はつるんとしていて引っ掛かりがないのですが、
上質なしっとり感が、手にすいつくようになじみます。

「サンプルですから、落とすのを怖がらず、
片手で持ってみてください」
そう言われて、底辺のやや厚い部分を
利き手で指にかけると、
意外なほど、ホールド感がいい!
手のひらと親指で支えれば、
力を入れなくても、すべらず、落とさず、
口に運ぶのもむずかしくありませんでした。
思い切って「回して」みると、これがまたいい感じです。

リム(唇のあたる、縁の部分)の口径も、ちょうどいい。
小さすぎると、うんと傾けなければ飲めないし、
広すぎると、香りが逃げるところを、
ほどよい大きさに調整されています。
このコップで飲むおいしさは、
脚つきの「ワイングラス」とはまた別の感動です。
どちらがおいしい、ということではなく、
どちらもおいしい。
そして、このコップには、
ワインがどんどん好きになっていくような
魔法がかかっているように思えました。
ワインにたいするハードル
(思い込みのようなもの)をピューンと超えて、
ワインを飲む楽しさにあふれているのでした。

どんなお店?

今回の「生活のたのしみ展」では、
ワインのコップを中心に、
お水やお茶を飲むのにいいコップもならびます。
それから、ロゴマークのヒントにもなった
ガラスのドームも登場。
ケーキやチーズを「誰かのために」
とっておくときに使ったり、
ちいさな置物、アクセサリーなどを入れると、
とたんにとくべつなものに変わるような、
ふしぎな容れ物。
あまり日本の食卓にはなじみがありませんが、
使ってみるとこれが‥‥べんりなのですよ。

それにしても高橋さんのつくるガラスのうつわ。
その使いやすさはいったいなんなんだろう?
と思うのですが、高橋さんのこんなことばに
そのヒントがあるように思いました。

「あんまり、仕事してるぞという気分で
ガラスに向かっちゃいけないなと。
ガラスに遊んでもらってるんだ、
って思いながらだと、
うまくいくような気がするんです。
だって。コップってね、
ふだん、誰でも使うものでしょう。
その、ふだん使うもので、
ちょっと生活がたのしくなったらいいな、って、
食器をつくるひとなら、誰でも思うんじゃないかな」